中上健次

昨夜、Eテレで中上健次テーマのドキュメントがあった。
自身の出自である新宮の「路地」で、中上が地域の老オバから聞き取りを録音したカセットテープが発見されたという。内容は凄まじい。父の職業を問われ、「博打打ち」と答える。地域の多くの少女たちは10歳12歳で遠く紡績工場に働きに出る。その記録で、老婆は紡績工場ではなく色街に売られ、14歳で子供を産んだことを語っている。
カセットテープを持って、健次の長女である作家中上紀がその語り手の遺族らを訪ね、一緒にその肉声を聞く。五人姉妹のうち四人が子供時分に色街に売られ、末娘だけが紡績工場ですんだ。姉たちのおかげで色街に売られずに済んだと感謝し生涯姉妹の仲は大変に強固だったという。
路地から働きに出た紡績工場について番組は信州や近江と述べた。私の知る近江八幡の方の父が紡績工場から琵琶湖に身投げした娘たちの遺体を何人も引き上げ手厚く弔っていたという話を思い出した。
その他、聞き取りでは痛ましい差別や貧困のエピソードが生々しく語られる。
同和対策法で集落に住宅が建てられ、隔てていた山が崩され道路が敷設され光景は一変する。その変化を路地の人々は口々に歓迎している。
地域で様々文化活動をしてもおり、また人々が口にする「健次」というその響きは親密さに溢れている。
作家としての貫き方、凄まじい腹の据わりと同時に根底の根底に対する疑問や憤りを物語に叩き込む迫力。
改めて人やこの世の深みから言葉、物語を生み出す過酷な営みに揺すぶられた。

ところで中上紀は去年銀華文学賞の授賞式で紹介され会っている。正直、あまりに色っぽくて内心おろおろしてしまった。美人とかスタイルがどうとか、そんなこと全く別次元の怖いくらいの艶オーラにやられてしまった。そんなことも思い出した。