ルネ・クレール – 「奥さまは魔女」1942

そのタイトルははるか昔子供の頃、テレビドラマとして耳馴染んでいる。きちんと見た記憶はないが、冒頭のキャッチーなナレーションが印象に残っている。当時はそういうアメリカ製のドラマが広く日本の家庭に浸透していた。ベトナム戦が泥沼化する以前の明るく楽天的な万能感溢れる戦勝国アメリカの文化だ。
何も考えなくて済む映画が観たいというリクエストに応えて、同じ題名の古典映画DVDを手に取った。冒頭、驚いた。監督名としてルネクレールのクレジットが表示されたからだ。「自由を我らに」「巴里の屋根の下」のルネクレールである。つまらなきゃ途中で席を立てばいいやと思っていたが、これはと身を入れて観た。
軽妙ないわゆるラブコメディということになるかな。面白かった。本当によくできている。先の展開があらかじめわかるのもご愛敬。ハリウッド製だから舞台はアメリカだ。ルネクレールらしい下町庶民の小気味よさはない。アメリカの下町と言えば、移民街しか思い浮かばない。場所が映画の味をそもそも規定するのだなと思った。
映画では270歳の魔女が美女の姿を借りて、魔法で恋人の知事選を勝利させる。文字通り「魔法」であるからなんでもありの荒唐無稽。その痛快さを存分に味わえる。
アメリカに「魔女」狩りそのものの歴史はないのだろうか。中世ヨーロッパの魔女狩りは依然巨大な検討対象であるはずだ。その正邪をめぐる宗教的熱狂はそのままファシズムとして今ここにつながることは誰にでもわかる。そうした重さから遠く離れて、こうした「楽しめる」物語を生み出すのも凄い才能。満足した。
で、観た後でWIKI覗くと、公開は1942年!パールハーバーの翌年だ。戦中の作品。「これじゃ日本負けるわけだ」思わず声を上げて苦笑した。