Simon & Garfunkel 「I am a rock」1966

人生の途轍もない恐ろしさをまだ思い知る少し前に、浪漫チックにとても好きだった I am a rockという歌がある。Simon & Garfunkel の歌だ。特にその歌詞にとても惹かれ、なんどもノートに書き写した記憶がある。14歳の頃だ。以後は気恥ずかしさが先立ちその歌詞を味わうこともほとんどなかった。他に詞も曲もさらに美しく完成度の高い彼らの歌は沢山あるからだ。
先日、久しぶりにI am a rockを聞いた。懐かしく、そして夢中になって聴いていた当時を思い出しながら、どこにそこまで惹かれたのだろうと自問しつつその曲を味わった。
もう半世紀も前になるのか。当時自分がことさらに好んだフレーズなどよく思い出すこともできた。なるほどこれは恥ずかしい。Paul Simonの歌としては少し珍しいほど振り切っている印象だ。どこにかと言えば、自己愛ナルシズムに振り切っているのだ。厨二病と言い換えていい。
「僕は岩。僕は島。」
タイトルにもなっているこれが、この歌のサビでありリフレイン。それは頑なさと孤絶の象徴だ。歌は殊更に自分の孤独とそこに至った訳を歌う。自分語りだ。自分の傷つき体験を語り、恨み言を述べる。どれだけ人を愛し、そして泣いたか。頼まれもしないのに、とうとうと一方的に述べている。だから今で言うかまってちゃんぽいのだ。「私は誰にも触れないし、誰も私には触れない」もちろんそれは反語だ。心底触れたいし触れられたい心情がこれでもかとにじみ出ている。いわゆるヤマアラシ症候群。
そこまではいい。ただ私がハッとしたのは三番の歌詞の出だしだ。
「(それでも)僕には本がある。守ってくれる詩がある」
そうか。当時はそうだったのだ。人や世界に拒絶され、そして拒絶するとき、そこにあったのが、本なのだ。そして詩なのだ。物語ではない。詩なのだ。ここが決定的だ。ネット前とネット後の決定的な断絶。かつてそれは文学の役割だったのだ。
今、引きこもる者には本や詩の代わりにネットがある。ネットはもうひとつの世界だから、一人部屋にこもってもネット以前の孤独にはなり得ない。ネットがあるからだ。誰にも触らず誰からも触られずに、それでも一人ネットで人と関わっている。嫌になれば離れればいい。避けるのも食いつくのも自由。否応なく嫌なことからも避けがたい出会いから面倒な負担を削ぎ落とした不思議な出会い方だ。だから孤独ではあっても、奇妙に一人ではない。そしてそれはかつて文学が果たしていた。もはや無用だ。ネットがあれば、孤独な者のための文学はもう必要がない。
かつて孤独な心情に寄り添い、そしてその活路への道程に道しるべとなったのは文学だった。憧憬と洞察、懐疑と発起。
それを懐かしがるのは電気のなかった時代のろうそくの明るさを懐古するに等しい。しかし文学自体の力が潰えたわけではない。言葉は今も変わらない。ネットがすべてを一新させても、文学自体が損なわれたわけではない。ネットの席捲によって、その役割が最早無用だと見限られたようにも見える。孤独と向き合うよりも、孤独を紛らす圧倒的なツールが強く求めずとも提供されるからだ。
しかし、その夥しい情報の奔流に埋もれかすんでしまってはいても、文学の力自体は衰えたわけではない。求める側の人や社会が変わっただけで、文学それ自体は何も変わってはいないからだ。
思いもかけず、I am a rockを聴き返したおかげで大切なことを思い出した。文学の深淵その力。求める側の都合に左右されない、文学そのものの限りのない意味合い。それは人類史とともにあったし、これからもそうだろう。大げさではない。言葉がある限り、文学はそこに生ずるものであるからだ。
だから文学とは営みなのだ。何を生み出すか。その評価よりも、ただたゆまず産み出だし続ける歩みなのだ。ネット時代に埋もれ消し去られた分だけ、そこにぽっかりと埋められない空洞が必ずあるのだ。書き続けることの甲斐を不意に知ることになった。

(ネットで見つけた或る和訳から)

A winter’s day
寒い冬の日
In a deep and dark
深い雪と曇り空に覆われている
December,
12月
I am alone,
僕は独り
Gazing from my window to the streets below
窓から下の通りをずっと見ている
On a freshly fallen silent shroud of snow.
白い雪が静かに降り注ぎ 辺りを真っ白に染める
I am a rock,
僕は岩
I am an island.
僕は島

I’ve built walls,
心に壁を作ってる
A fortress deep and mighty,
巨大な要塞が他者を寄せ付けない
That none may penetrate.
何者もこの心の要塞を突破する事は出来ないだろう
I have no need of friendship, friendship causes pain.
僕には友人との触れ合いなんて必要無い 友情は僕を傷付けるだけ
It’s laughter and it’s loving I disdain.
笑うなんてしなくなった 愛なんて興味も無い
I am a rock,
僕は岩
I am an island.
僕は島

Don’t talk of love,
愛について語る事は無い
But I’ve heard the words before,
でも 以前はその言葉を耳にしていた
It’s sleeping in my memory.
それは僕の眠っている記憶
I won’t disturb the slumber of feelings that have died.
眠る記憶を呼び起こすなんてしないよ 死にゆく記憶 そう感じるから
If I never loved I never would have cried.
恋なんてしなければ泣く事は無かっただろう
I am a rock,
僕は岩
I am an island.
僕は島

I have my books
僕は本を持っている
And my poetry to protect me,
そして詩も それらは僕を守ってくれる
I am shielded in my armor,
更に僕は鎧によっても守られているんだ
Hiding in my room, safe within my womb.
自分の部屋に隠れ まるで母の胎内の中の様な安らぎを得る
I touch no one and no one touches me.
僕は誰にも触れず 誰も僕には触れない
I am a rock,
僕は岩
I am an island.
僕は島

And a rock feels no pain,
岩は痛みを感じない
And an island never cries.
島が泣く事は無い