2019.11.24 東京文学フリマレポート 「文学フリマに魅せられて」 原 浩一郎

 会場に到着して驚いた。一般来場者が長蛇の列なのだ。まだ開場まで一時間以上もあるというのに。
 東京の文学フリマは大規模だと承知していたが、目の当たりにしたその盛況ぶりは予想をはるかに超えていた。出店は一〇八八ブース、来場者はなんと六〇四四名を数えたという。その圧倒的熱気は衝撃的だ。
 文学フリマとは全国九か所で開催されている文学作品の展示即売会、つまり文学のフリーマーケットだ。今年が一八年目と、その歴史は意外に古い。一般商業流通に乗らない作品を作家自身が直接販売するそのスタイルは斬新である。
 出店者の顔ぶれは若く、その多くは二十代から三十代か。グループでの出店が目立つが、単独で出店している者も少なくない。個性的なレイアウトでブースを思い思いに飾り立てている。並んでいるのは、小説、詩、評論ほか自作の作品群。自費出版ものもあれば手製の私家版、果ては手書きのコピーをホチキスで留めただけのものまである。ここでは作者が文学だと認めるものはすべて文学とされる。だから紙媒体だけではない。オリジナル作品の朗読や歌曲のCD、様々なグッズや小物アクセサリーまでが並ぶ。それらが広大な会場いっぱいにぶちまけられたように美しいカオスを出現させている。
 私はこれが三回目の出店だ。関西から私家版を抱えて各地に一人で遠征している。初めて参加したのは今年六月の岩手文学フリマだ。開場早々、ネットで知り私の作品を購入するため新潟からやって来ましたという方があらわれ驚かされた。また、数時間前に購入して帰られた方が再び目の前に立っている。すぐに読んでみたがとても面白いので他の作品も全部読みたくてまたやってきましたと興奮気味におっしゃる。稀有な機会を逃すまいと来場者も意気込んでいるのだ。たいそうな売上が期待できる訳ではないが、その後に丁寧な感想を寄せてくださる方も多く、この上ない創作の励みになる。九月には大阪の文学フリマに出店したのだが、実は文学フリマの醍醐味は来場者との出会いだけではない。出店者同士の出会いもまた格別なのだ。大阪では若い出店者たちと懇意になった。バンド活動のかたわら文学学校で創作活動に打ち込んでいる青年やオリジナルな文芸創作を模索している社会運動史専攻の青年研究者など。その関心や発想はとても興味深い。作品についての率直な感想もうれしく、今でもメールのやり取りが続いている。そして今回も、病やジェンダーに関わる自身の体験を小説化されている女性と深い話で盛り上がった。また漢詩の創作を続けているWEBライターや障害特性を作品に落とし込んでいる男性と作品を介して語り合い、共感を深めた。
 文学フリマの魅力を尋ねられたら、「私が書く理由(わけ)」が満ち溢れていることだと答えたい。書かずにはおれない切実で瑞々しい衝動がむきだしなのだ。抱えた人生の軋みがそのたたずまいからこぼれんばかりに溢れている。それは私が十代の頃に駆り立てられていた情動と何も変わらない。これこそが文学に向かう誠実な原点ではないか。ファンタジー系やBLものであろうとかまわない。それは尊いと断言できる。親子ほどに歳が離れていても、彼らは私の同志である。
 年明け早々に次回は地元京都で開催の予定である。もちろん出店応募済みだ。すでに文学フリマは私にとって創作活動の大切な支えだからだ。

「原浩一郎」&「文芸思潮」2020 出店予定
第4回 文学フリマ京都 1/19
第4回 文学フリマ前橋 3/22
第30回 文学フリマ東京 5/6
第5回 文学フリマ岩手 6/21

(「文芸思潮」第74号)