藤原竜也「ハムレット」2003

彼の途轍もない表現の力をなんと言い表せばよいだろう。遠くからでもわかる美しい顔立ちや均整の取れたしなやかな体躯の見栄えまでが加担して、溢れかえるほど魅力が噴出して比類のない表現の巨大な源泉となっている。
私は叫ぶ演技はあまり好きではない。いや、正確に言えば、できない演技を大声叫ぶことでごまかす役者が恥ずかしくて見ておれないのである。或る情動にその人物が襲われていることを観衆に伝えるには、もちろん技術もあろうが、その情動そのものを知っていなければならない。しかし、一人の人間が体験してきた感情など知れている。まして何事もなく鈍感な人生を送ってきていたならば、言葉でしかわからない感情を内心に惹起することなどできない。そこで叫ぶのだ。いや、叫ぶにも当たらない。ただ、大声を張り上げているにすぎない。一ミリも伝わってこない。
そして藤原竜也だ。この凄まじい七色の情動の奔流には、映像を観るだけで我忘れ心をわしづかみにされる。叫ぶとは、こういうことだ。表現、表現、表現。言葉にこそ、その豊饒な力を宿し、孕ませたいのである。


▲ 復讐に踏み切れぬおのれを嫌悪し罵倒し、もだえ苦しんだ末に姦計を思いつくハムレット。2003蜷川ハムレット。藤原竜也21歳