劇団「男魂(メンソウル)」!

昨年の定期公演で私の小説「航路」を舞台化して上演されたのが、劇団男魂(メンソウル)である。
初めにお会いしたのが、座長杉本凌士さんが脚本演出された舞台を拝見したときだ。MAXのNANAさん主演で脇を少女たちが演じる舞台はとてもみずみずしく感銘を受けた。こういう舞台をつくられる方なら信頼できる。それが最初の感想だ。その後、公演前に舞台稽古を見学させていただいたのだが、さらに深い感動を体験することになった。そのとき初めて脚色を拝見したのだが、脚本構成の巧みさに驚かされた。もともと「航路」はひとつの事件が引き起こした物語を三つの視点から描いたものだ。ひとつは加害者、もうひとつの視点は被害者遺族、そして加害者の雇い主親子だ。人は知らぬところで人を傷つけ痛め、また知らぬところで人の力にもなっている。それを描きたかった。だから、三篇の短編小説でひとつの全体を構成している。これをひとつの舞台劇とするのはとても難しい。想像もできずにいた。ところが、杉本さんの脚本は見事にひとつにまとめ上げていたのだ。驚いた。おまけに説教臭い僕の「航路」にうまいことお下劣ジョークを散りばめてくださった。これならきっと物語を素直に受け止めてもらえる。絶妙の仕上がりだ。そして俳優陣の演技が達者なのに舌を巻いた。もともと私はそれまで舞台に縁がなく無知であった。だからそのときはっきりと、テレビや映画で活躍する俳優はその演技力によって注目される存在となったわけではないことを知った。つまり、広く世間に知られてはいない達者な演技力の役者が舞台にはたくさんいるのだ。それが所謂人気商売の定めといえばそうなのだろう。そう言えば、著名な俳優が成功の理由を運や出会いと述べ、演技を努力鍛錬することは当たり前の前提としている言葉をよく耳にする。ともかく、座長杉本さんの脚本家、演出家としての凄さ、俳優陣の演技力に驚いたのだ。それだけではない。劇団員の人柄にもとても惹かれた。深く言葉を交わしたわけではないが、それはたたずまいに現れる。皆、私の好きなオーラをまとっている。私は男魂のファンになった。
「航路」公演は素晴らしかった。私は活字を操ることしかできない。言葉の力を信じてはいるが、男魂の舞台を観ると演者の身体と心を存分に観客にさらして訴えて伝えるその魔法のような力に、魅入られ圧倒された。人々がその舞台を前に演者と呼吸し、大声上げて笑い、そして心震わせて涙を流す。なんという素晴らしい空間だろう。これが演劇の力なのかと感嘆するばかりだった。
あの夏は私にとてもスペシャルな体験となった。
その後、秋には杉本さん坪内守さんが戦国武将を演じる舞台を観劇し久しぶりにお会いできた。また、ロングランヒットとなった松岡茉優主演の映画「勝手に震えてろ」のスクリーン上で、仲田育史さんの雄姿(フレディ)を拝見し幸福な気持ちになったりした。
また今年の夏前には東京に出向いた際に劇団の皆さんと呑む機会をいただいた。慌ただしい時間で申し訳なかったが、さまざま会話が弾みとても楽しかった。あっという間の時間だったのを思い出す。
そして秋に今年の定期公演となるのだが、その前に杉本さんは有名俳優陣出演の国立オペラ劇場のミュージカル舞台を演出もされているし、坪内さんはなんと吉田鋼太郎演出のシェークスピア劇へのキャスティングが決定されている。その他、皆さんさまざま映画やテレビ、舞台に出演されている。うれしいし、さらに活躍される場が広がるのは当然だと思っている。
今年の定期公演「髭王」も素晴らしかった。劇団俳優陣のみによる公演で、若手団員を物語の中心に配役したものだ。脚本はもちろん杉本さんの手による。笑って泣けての真骨頂である。面白かった!
ところで、昨年の舞台「航路」を、誰もが知っている有名な某メディア企業の部長職の方に観ていただいた。観劇後いただいた感想の最後にこうあった。「ちょっと侮っていました。メンソウルよかったです!」そう言わしめる彼らの実力に乾杯である。
舞台「航路」男魂編集版のDVDが完成した。すばらしい。これはやはりもっと多くの方に観ていただかねば、あまりにもったいない。そして、いつか必ず劇団男魂京都公演を実現したい!と改めて思うのである。