「八甲田山」

先日BSで映画「八甲田山」を見た。この冬いちばんの寒波と言われ、ちょうど窓の外は雪だった。
高倉健主演の有名な作品だし、「天は我を見放した」という当時喧伝されたコピーは記憶に摺り込まれている。が、今まで一度も観たことがなかった。レンタル屋でもそれを借りることがなかった理由は、おそらくテーマのつかみどころの無さにあったのではないか。「真冬の東北山中での地獄の行軍」漠然とそう理解していた。そして、こう思っていたのだ、多分。「それで?」
何が言いたいのか、パッケージからは理解できなかったのだと思う。何かを声高に糾弾するのでも、また賛美するのでもないような印象だった。何が言いたい映画なのだろう。ぴんと来ないな。そう思って、多分棚にそのケースを戻したのだ。
で、実際に観た。
抱いていた印象は間違っていない。糾弾も賛美も無い。ただ美しい白の映像で苛烈な悲劇が描かれるのみだ。何を言わんともしていない。あとは見た者がどう思うかだけだ。そして何を選ぶかだけだ。
長く印象が心の深いところに残った。とてもいい映画だと思った。
そして、全体が死に向かうその行軍の実像は、さらに醜く空虚で悲惨でもあったはずだと想像する。そこに美しさはあったとしても。
いつも現実はそうだ。それをどのようなまなざしで描くか。それが作家の力量だ。