宇野宗佑「庄屋平兵衛獄門記」1971

天保近江一揆について、関係者の子孫等への聞き取りも行っている著書があると知り入手した。著者は宇野宗佑。あの宇野宗佑、三本指三十万の宇野宗佑であるw。そういえば滋賀県出身だ。総理就任時、趣味人と紹介され確かテレビでピアノを披露していたのを記憶していたが、こういう文人であるとは知らなった。発行は71年。すでに国会議員だが、大臣経験もない若手議員だったころの本だ。もともと雑誌に連載していた短文を大幅に加筆したものだ。だからそれぞれ独立したテーマで一揆を考察し調査し解説している。面白い。
もともと地元守山の出身なので、例えば祖父母から一揆の際のさまざまなエピソードや体験を直かに聞いている老人たちがまだ健在で、訪ねては聞き書きしている。過去が現在と切り離された、いわばパラレルワールドの空想物語でなく、今ここの現実とつながった過去なのだとリアルな感触が得られる。本来それが歴史というものだろう。また、着眼もシャープで違和感を覚える事実をなぜ?と探求する姿勢には惹きつけられる。残念だ。
これを知る以前の「宇野宗佑」のイメージはすこぶる悪い。リクルート事件で軒並み有力政治家が非難にさらされ期待された政治家はこぞって総理職を固辞した。そのためやむなく能力も経験も資質も乏しい二流政治家に総理の椅子が転がり込んだ。そのようにマスコミは述べていたし、私含め多くの大衆はそのままに受け止めていたのではないか。しかし、愛人スキャンダルにせよ、当時は(今も?)愛人のいない国会議員などほとんどいなかったであろうし、アメリカや官僚に対しはっきりともの言う稀有な態度が証言されており、演説の名手であったと言うから、まんまとネガティブキャンペーンにやられたくちと言うべきだろう。都合の悪い話には逆ギレで攻撃し、堂々とごり押しで突き通せば嘘も真実になる今風の政界よりは、愛人からの暴露にいっさいノーコメントを通して自身の転落を招いた彼の方がずっとましに思える。彼が連載していた雑誌「大衆文芸」は直木賞作家など有名作家を多数輩出している明治期来の文芸誌である。ゴーストライターによるピカピカの幽霊本ばかり恥ずかしげもなく出している政治家たちとは大違いだ。惜しい気がする。
閑話休題、地元ならではのさまざまなエピソードに触れた。これはやはりますます地元を歩き、一揆の喧騒や百姓たちの息遣いや興奮を直に体感したいと思う次第。甲賀から三上山麓まで、実際に一揆勢が集結し進軍し包囲した道筋。楽しみである。