文学の「問い」

本当にそうなのか。
文学は深いところで問いかける。
「これはこう」「そうに決まっている」
そうした「当たり前」「当然」の認識や湧きおこる情動について、読む者が深いところで疑問を宿す。
たとえば、苦しむより喜ぶ方がいいに決まっている、争うより睦まじい方がずっといい、わからないよりわかった方が、不調より快調の方が、不運より幸運の方が‥。
好ましいこと、避けるべきこと、心地よいこと、いやなこと、幸福不幸ということ。
そうした、「当たり前」に一点の問いを、水面に垂らす墨の一滴のように落とす。
それは許せない。それは素晴らしい-。本当なのか。
それはかわいそう。それはだめだ-。本当なのか。
虚無に誘う懐疑とは、少しだけ異なる。
疑いでなく、問いだからだ。
そこに文学のいのちを見る。
文学の所以を見る。
そうした根底にさかのぼる問いの只中を
書き手はもとよりその棲家とする。