アントニオーニ「太陽はひとりぼっち(L’eclisse 日食)」1962
ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「太陽はひとりぼっち」を観た。まずこの邦題はちょっと悲しい。原題は「日食」である。「情事」「夜」に続くアントニオーニ監督の「愛の不毛三部作」と称される作品なのだから、そのまま「日食」或いは「日蝕」で良かっ...
ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「太陽はひとりぼっち」を観た。まずこの邦題はちょっと悲しい。原題は「日食」である。「情事」「夜」に続くアントニオーニ監督の「愛の不毛三部作」と称される作品なのだから、そのまま「日食」或いは「日蝕」で良かっ...
NHK日本の芸能 能「砧」 捨て置かれた女の恨み物語である。京に訴訟のために上った夫から音信が絶えて三年たち、ようやく間もなく帰ると伝えられ、妻は中国故事になぞらえ夫に思い届けよと砧(きぬた)を打つ。砧とはアイロンのように洗った衣服を叩く木...
スマートレターが届いた。一体何がと開いたら、もう30年近く前に自費出版した私の小説だった。添えられた手紙もなく、どのような意図で送付されたのか分からなかったが、汚れて染みの広がる一冊だけしか手元に残っていなかったので、まだ美しいその一冊はと...
ヒロトのブルーハーツに、どんな記念日なんかよりあなたが生きている今日はなんと意味があるのだろう、と叫ぶ歌があった。LiveStandなど正月のライブでは、「記念日」を「お正月」に置き換えて「どんなお正月なんかより」と歌っていた。 正月はただ...
六角獄舎の図面をようやく入手した。近代以前の獄舎については小伝馬町の獄舎の資料が多く残されている。但し、江戸の所在なので規模もひどく大きいし、各藩の獄舎についてはどうしてもわからない。せめて京都の六角獄舎ならばと思い探したがネットではその大...
演技「汚れ」考 〜劇団男魂(メンソウル)「バカデカ 勿忘草」 前に僕が書いた映画シナリオについて、脚本の師匠から「キャストするなら主役はどんな俳優さんがいいですか?」と問われた。シナリオの主人公は使命感などかけらもないやさぐれた刑務官だ。僕...
演劇論は一冊も読んだことはないが、自分なりに悲劇と喜劇の関係については呑み込んだ。きっかけはメンソウルの舞台だが、見ていくとあらゆる悲劇は喜劇に移し替えることができるし、その逆も同様だ。しかし寅さん、チャップリンと言った喜劇が愛されるの同じ...
劇団男魂(メンソウル)の劇「but and」の上映会を行った。もう5年前の舞台映像だが、その力は圧倒的だ。 メンソウルワールド、そのエッセンスである座長にして脚本演出を手がける杉本凌士ワールドと言いかえてもいいのだが、私が惹かれてやまないの...
作家がその物語に登場する人物である「私」として小説を書くとき、作家は人物に憑依され「私」となる。しかし例えば群像小説など、それぞれの登場人物が体験する主観世界を併存させて物語るときなど、作家は「私」ではなく、無主体?の超越的な人格として、よ...
國分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古学』(医学書院) 斎藤環書評 <リンク> 我ならざる我、私を支配している自動回路が暴かれて、私たちの世代が時代の空気価値観としてそのままに吸収してきた近代的自我や主体性理論がすでに効力を失って久...
昨日、京都演劇祭に出かけた。数年前にも一度参加したことがある。そのときは確か、府のコンクールで受賞したという高校演劇部の劇を観たのだ。それは水上勉原作の有名な戯曲で、とても見応えがあって驚いたのを覚えている。今回は、中島貞夫監督シナリオ塾で...
凄い舞台を見た。感想もすぐにはまとめられなかった。劇団男魂(メンソウル)の「BUT AND」だ。2014年第15回公演の収録映像を見せていただいたのだ。 なんと言えばよいか、杉本舞台のテイストは最高なのである。素晴らしい。いつも男魂の劇をこ...
ここにも記したがNHKで久しぶりに能を堪能し、そのまま余勢を駆って安田登の「能-650年続いた仕掛け-」を一気に読んだ。面白かった。と、さらに能に造詣の深い著名なある随筆家を特集するテレビ番組があり、録画しておいた。名前はよく見知ってはいた...
▼ Anly – MANUAL ▼ The Blue Hearts – Too Much Pain ▼ 友部正人 – お日様が落っことしたものはコールタールの黒 ▼ 熊木杏里 – 朝日の誓い ...
卒都婆小町は観阿弥作の能楽である。観阿弥は能楽を確立した世阿弥の父だ。 美少年世阿弥は将軍義満から特別の寵愛を受け、上流階級の中で成長していったのだが、その環境基盤を築いたのは父観阿弥である。観阿弥はもともと奈良大和で様々な芸を披露する芸能...
ほんの短い期間だったが、こっそり事前投票事務のバイトをした。2回目だが久しぶりに会う顔もあってちょっとした同窓会気分だ。市井の人たちの中に入るのは楽しい。立場や役割でふんぞり返っている滑稽な男たちよりも、組織や権威とはかかわりなく実は太々し...
壇ふみが父檀一雄が滞在したニューヨークを訪れる。そこで壇ふみはそれまで読んでいない父の「火宅の人」を読むことになっているのだ。「火宅の人」は檀一雄が愛人との生活を赤裸々に記した事実上の私小説とされている。壇ふみは父の没後もその長編を実は読ん...
男魂の舞台映像を観たせいで、「惡の華」を別なアングルから見ることができるのではないかと思った。先に書いたように、「惡の華」は暗く荒涼とした鬱の世界が描かれている。しかし、悲劇は喜劇でもある。それは描き方次第。だから男魂作品は喜劇と悲劇が折り...
劇団男魂(メンソウル)の第11回本公演「GRAPEFRUIT MOON」をDVDで観せていただいた。素晴らしかった。 劇のあれこれ書きたいのだが、あまり内容に触れるとネタバレになってしまう。しかし、よい作品はあらかじめあらすじを知っていても...
Asa-Chang&巡礼のhanaの美しさに惹かれて辿るうちに、押見修造に出会った。若い人の間ではよく知られた漫画家なのだろうか。先日、若い友人が「開放倉庫」に連れて行ってくれた。メジャーになる前、もう何十年も前のvillage ...
永山則夫の精神鑑定面接の100時間に及ぶ録音テープに基づく番組である。その生涯を永山の肉声を軸に辿っていく。 永山則夫についてはこれも高校時、大きな話題を呼んだ発行まもなくに読んでいる。怨念すら感じさせる肉筆の詩篇群はまだ高校生だった自分に...
NHKプレミアムカフェ「『津軽』生誕100年 太宰治と故郷」(2009)を見た。再放送を求める人気が高かったというが、さすがに見ごたえのある番組だった。 冒頭、新潮文庫の文芸作の累計発行部数の上位十作品が表示されたが、二位に人間失格、そして...
先月、ある著名な格闘技選手の母親にあたる方にお会いした。私はその方を間接的にしか知らずにいたのだが、その選手のことはよく知っていた。特に珍しい姓ではないので、その方と選手を結びつけることなどなかった。ひょんなことからその方の息子さんが格闘技...
高校時代をひとつのモチーフとした短編を書いた。また突貫で二週間で仕上げたのだが、よくない書き方だと自分でよくわかっている。中途で全体構成の修正を思いついても断念せざる得ないし、書き上げ一息ついたあとで細々としたしくじりに気がついてしまうもの...
古い作家たちのインタビュー映像をyoutubeに見つけた。伊藤整が進行役となって、三島由紀夫を交え鼎談形式で川端康成にノーベル賞受賞を記念してインタビューする映像があり、とても興味深かった。川端ははなから正面きって自作を語る気はない様子だが...
心を入れ替えるべきなのは、孤独な男の方なのか。 あまり文句ばかり言いたくはない。どうしてそう否定的なのかといい加減敬遠されてしまいそうだ。 否定ではない。ふと思うことを綴ってみたいのだ。 映画「グリンチ」を観た。クリスマスの物語だ。こういう...
まもなくクリスマスだ。 そう思っても、何か華やぎ浮き立つ心持ちからは遠い。それはただ私の心情だけでなく、街角や店先にもクリスマスぽさが薄い気がする。気温のせいもあるかもしれない。白い息とポインセチアの緑と赤。クリスマスソング。それはやはり人...
気になるニュース記事を見た。それは、ある有名な元AV女優が妊娠したことについてだ。その女優は中国で大変な人気を博しており、中国で知られる日本人として五本の指に入るとまで言われている。その記事は、女優妊娠についての日中での反応の相違について報...
「一億一心が、私共がいるばっかりに、一億二心となる不始末。まったくどなた様にも申訳ない次第」 金子光晴が戦時中に発表のあてもなく、ひそかに書き溜めていた詩の一節だ。不貞腐れた拗ね者の風だが、軍に召集を受けた息子を徴集から逃れさせようとする身...
昨年の定期公演で私の小説「航路」を舞台化して上演されたのが、劇団男魂(メンソウル)である。 初めにお会いしたのが、座長杉本凌士さんが脚本演出された舞台を拝見したときだ。MAXのNANAさん主演で脇を少女たちが演じる舞台はとてもみずみずしく感...
今年は、1968年から50年である。BSで「1968 激動の時代」というドキュメンタリー番組が前後編二夜連続で放送されはしたが、「あれから50年」ということがさほど社会的に関心を集めたとは言い難い。 そのドキュメンタリーでは、切れぎれのエピ...
昨日、滋賀県文学祭という催しに出席した。今年度の滋賀県文芸出版賞を受賞し、その授賞式があったからだ。参加は初めだったので、興味津々出掛けた。 それはひとつの風景であり光景であった。ところで私は湖東の景観をとても愛するが、受賞式の情景はそのま...
こういうタイトルの本はまず敬遠する。コンビニに並んだこの類のお手軽本は大方「わかった気になる」だけで、本当は全然わからない。というか、つまり「わかった気になる」という一点でダメだ。物事は、わかれば一方でわからない部分が浮上し、もっとわかりた...
昨日、唐突に「蟹工船」の言葉を耳にした。何年前だったか、まるで幽霊船があらわれるみたいに「蟹工船」のブームが起きた。確か映画にもなったはずだ。平成に蟹工船が描けるわけもないからおそらく非正規雇用ブラック企業に煮え湯呑まされている層を想定して...
天保近江一揆について、関係者の子孫等への聞き取りも行っている著書があると知り入手した。著者は宇野宗佑。あの宇野宗佑、三本指三十万の宇野宗佑であるw。そういえば滋賀県出身だ。総理就任時、趣味人と紹介され確かテレビでピアノを披露していたのを記憶...
「とても面白かった」と、女性から勧められた。その人から映画を勧められることなど滅多になかったので、それならと見てみることにした。 大竹しのぶが主演だ。つい先日、太田光との対談番組を見たばかり。二人の対話、とても面白かった。実は太田光、高校生...
江戸後期に起こった天保近江一揆について「近江大一揆」(松好貞夫1962)「天保の義民」(加藤徳夫2002)「燃える近江」(野洲町立歴史民俗資料館1992)を読んだが、それらが参照した元の文献に当たってみたくなった。押し寄せた農民4万とはやは...
「フランス文学と愛」読了。同時にいろいろなもの並行して読むので、ずいぶん時間かかったのだが、新書とは思えないほど重厚な読み応え。読んでよかった。その時代らしく「愛」についての社会意識と文学作品が絡み合う鮮やかなクロニクル。面白かった。 つま...
#MeToo運動を題材とした海外ドキュメンタリー番組を見た。昨年、ハリウッドの有力プロデューサーが積年重ねていたセクハラ、レイプを被害者自身が告発する運動の発端からその経緯、波及について、インタビューで構成した見応えのある番組だ。 私は男性...
人によるものなのだろうか。私の場合は、という話に過ぎないのかもしれない。携えて生まれきた人生のテーマはすでに十代において明らかにされている。重ねる夥しい日々の中で周囲をめぐり逃れては引き戻され、深まろうとしては浮かび上がり、澄み切るかと思え...
溝口健二の映画「近松物語」から、原作の近松門左衛門「大経師昔暦」を読み、さらに同じ事件を題材に小説化した井原西鶴の「好色五人女巻三」まで読み進めた。作家の微妙な物語のアレンジに注目すると、現代とは異なる江戸時代における大衆の恋愛観や性(行為...
それは私がたまたま目にして来なかっただけで、すでにたくさん指摘されてきたことなのだろうか。ジョンレノンはヨーコと描くパフォーマンスを、ゲンズブールとバーキンになぞらえていたのかも知れない。ほぼ同時期のようだが、先鋭的な男女二人のパフォーマン...
まもなく、11月だ。もう12月が目の前である。 この歳になっても、12月と聞くだけで心が何かワクワクと弾むのを覚える。それは子供時分から、変わらない。 誕生日があるせいだろうか。クリスマスや冬休みが楽しみだったのだろうか。はっきりとその心浮...
溝口健二監督の映画「近松物語」に強く心動かされ、その原作である近松門左衛門の人形浄瑠璃「大経師昔暦」を読んだ感想を先に書いた。しかし思うところをうまく書き言葉にできないところが多かった。さらに、同じ実際の事件を題材とした井原西鶴の手による小...
私は手錠をかけられたことがある。そう言うと、決まって学生時代ですかと尋ねられるのだが、違う。16歳のときだ。 やってきた署員たちに手錠を両手にかけられ、パトカーの助手席に座らされた。手錠をかける際警察官は、「悪いけど、規則だから」という趣旨...
まもなく11月となる。紅葉のシーズンだ。 九州にいる頃は、秋という季節をしみじみと味わったことはなかったのかもしれない。鹿児島の森の赤い葉や黄色の枯葉を思い出せない。それはもちろん当時の私の精神性の問題だ。それよりも台風の記憶の方が鮮烈で今...
バカだなあ。自分で思う。寝込んでいた布団から這い出し、週に一度のお勤めに行ったところ。1日間違えていた。orz(👈若い人これ知らないらしい)明日また出直しである。歳のせいか。いや、もともとが呆けているところに加齢で呆けが二乗になったうえに寝...
少し前、「秋の茂造まつりin守山」という催しに出かけた。守山とは滋賀県の守山市で、茂造とは吉本新喜劇の辻本茂雄演じる「茂造爺さん」のことだ。 こういった舞台をじかに見るのは初めてだった。一度吉本の舞台見てみたいなとぼんやり思ってはいたが機会...
横になったまま身体を動かすのも難儀で、ただ寝るほかない状態から、徐々に体調も回復してきた。注文していた古書が届き、横臥したまま頁をめくった。 岩波新書「天保の義民」と鳥影社の「近江大一揆」、いずれも天保年間に甲賀野洲一帯で起こった一揆につい...
酷く喉をやられ寝込んでいた。信じられないほど、爆睡したのだが、何度も明細な夢を見た。長くリアルな余韻が残る夢だ。 それはキリスト教の学校であった。学友は年齢も様々で男性もあれば女性もある。信仰を基いとした一般教育機関ではなく、信仰を学び体得...
昨年の劇団メンソウル定期公演「航路」を収録したDVDが届いた。楽しみにしていたので、早速に観た。やはり素晴らしい。感動した。 もともと原作は或る施設の教材として書いたものなので、くどくどとした説明や説教臭さが鼻につく。しかし、それを補って余...
NHKの100分de名著、先日「フランケンシュタイン」の四回シリーズをまとめて見た。 以前、映画「フランケンシュタイン」を見てとても面白く、その感想をここに書いた。そのとき娘から原作小説の方がずっと面白いよとLINEが来たのだが、スルーして...
反感や嫌悪。あいつは嫌いだ。どうにも虫が好かん。むかつく。最初から気にくわなかった。いらいらする。顔も見たくない。 理由ははっきりしている。あいつは左翼だ。あいつは右翼だ。あいつは役人だ。あいつは商売人だ。あいつは高卒だ。あいつは大卒だ。あ...
今月始め、次は或るテーマで小説を書こうと思い立ち、図書館に通っては書庫からテーマに関連する本を出してもらい、また新たに分かった関係書を書庫から出してもらっては家に帰る。そして手元に置く本とすぐに返す本を選別しては、そのうちあれこれ読了し、ま...
溝口の近松物語があまりに良かったので図書館から借りて近松を読んでいる。もちろん、そのままの本文では、高校時代授業サボりまくって教科書も持っていなかった僕には意味不明な箇所多すぎて読めやしない。上段に用語の解説、下段に口語訳と三段構えを上下目...
仙谷由人が死去したと報じられた。 その名を聞いて思い出したのは、自衛隊のことを「暴力装置」と呼び、国会で問題となったことだ。当時野党だった自民党の確か片山さつきあたりが隊員やその家族を愚弄する発言と大反発した。 暴力装置という概念を国会議員...
もう10月だけれど、夏の終わりを思い出して噛み締めたくもなる。だって、慌ただしかったものな。あのきりきりと胸痛む夏の終わりはこんなに擦り切れて鈍麻した精神には遠い過去だ。 今若い時分を思い起こすのは、なにひとつ分かってはもらえなかったという...
もう10月。地震だ、酷暑だ、台風だ。そして雨だ、また台風だ。そう言っている間に、朝夕すっかり肌寒い。当たり前だ。もう10月。もう10月なのだから。 昨日、東京から帰ってきた。日曜から木曜までだから、五日間東京にいたことになる。最後の夜、劇団...
「浪華悲歌」と書いておおさかエレジーと読む。 主役は山田五十鈴。おばあさんの姿しか知らなかったが、さすが美しく演技派だ。 製薬会社の電話交換手あや子は、会社の金を使い込み弁済を迫られている父の甲斐性のなさに呆れて父と喧嘩して家を飛び出し会社...
「瀧の白糸」 サイレント時代の溝口健二映画の名作。売れっ子の「水芸(と言ってもわからないか)の太夫(これまたわからんやろな〜)」つまり英訳 the water magician である滝の白糸、本名水島友の悲恋物語。友は一目惚れした士族青年...
内田樹の「映画の構造分析」家の本棚にあったので、ペラとめくって読むととても面白そう。部屋に持ち込みゆっくりと読んだ。少しずつ時間をかけて読み、今日ようやく読み終えた。とても面白かった。 映画評の書籍の類は、単に映画紹介ということ以上に評者の...
安藤サクラの凄まじさに圧倒された。Wikiによると、こうある。「だらしない女性の役を演じるときは、『女優さんが汚い役を演じている』と思われるのが嫌で、本当に汚くだらしない人間になろうと心がけるが、そのために歯をガタガタにしようとした際には歯...
「14の夜」と「そうして私たちはプールに金魚を」。いずれも主人公たちは中学三年生だ。「14-」が、何者でもないさえない男子四人のグループ。「そうして-」も同じくらいどこにでもいる女子四人だ。「14-」は1987年がその舞台で、「そうして-」...
原浩一郎というのはペンネームだ。三年前、応募した小説が賞を取り掲載されることになり、慌てて新たに名を決めてその名を編集長にお願いした。名前に意味はない。適当だ。以前まだ30代のとき、新聞に記事が掲載され、ラジオ番組にも呼ばれ、青年会議所で講...
夏に取材を受けたとき、読者にとっての作品の意味について問われた。私が書いた作品を読むことにどのような意義があるのか、というのだ。また、作品で何を伝えたいかとさかんに尋ねられた。なんとかよい新聞記事にしようと苦心されたわけだ。しかし、だ。それ...
ようやく小説128枚書き終えた。あと一週間で推敲。いつものとおり、ぎりぎり瀬戸際執筆。9月はこれ一本だけだ。8月は、90枚の脚本と50枚の小説を書き上げ、50枚の脚本初稿を上げた。月末頃はかなりおかしな精神になっていた。ある種のトランス状態...
「近松物語」を観た。短い間に二回も見た。近松門左衛門の浄瑠璃「大経師昔暦」の溝口健二監督による映画化である。素晴らしかった。とても深く強い感銘を受けた。 ちょうどその前に新藤兼人によるドキュメンタリー映画「ある映画監督の生涯-溝口健二」を見...
困った。10/14劇団メンソウル定期公演を観に東京へ行く予定だったが、ちょうどこの日京都国際映画祭で中島監督の「多十郎殉愛記」がプレミア上映されることになった。先日、シナリオ塾で監督と脚本家の谷さんから聞き、その場で気軽に「行きますよ!」と...
この夏は「ジュラシックワールド」「ミッションインポッシブル」も映画館で見たが、特に何かを思うということもなかった。くさしているわけではない。面白かった。しかし、考えを巡らせ想いを馳せて何かを書こうという気にはさせてくれない。 で、また古い映...
初めに聞いたのは先月の頭だ。実際に東京の劇場ですでに観たという人と、噂を聞いており是非観るつもりだという人から話を聞いた。そのとき私はその映画をまったく知らなかったのだが、二人の興奮した話ぶりと語るその内容から、それなら必ず見るぞ、と私も即...
映画「透明人間」1933 透明人間という言葉はこの映画より前にも日本にあったのだろうか。原題は the invisible man「見えない人」だから、「透明人間」というのはいかにもナイスな邦訳なのだと思う。 「フランケンシュタイン」同様、...
先日テレビで映画「銀魂」を観た。上映当時特に関心を抱いたわけではない。よくある人気連載漫画の映画版のひとつという印象に過ぎなかった。ネット記事で橋本環奈の振り切ったコメディエンヌ振りが賞賛されていたのを覚えている程度だ。その続編の上映に併せ...
盆を過ぎ、八月も下旬となった。猛暑とか酷暑とかいう表現は耳慣れていたが、今夏の「危険な暑さ」という言い方を聞いたのは初めてでなかったか。災害としての暑さという認識は正確に理解するまでなかなか時間がかかった。 ようやくしのぎやすくなった。昨日...
近江天保一揆について調べ始めている。きっかけは道で偶然見かけた「天保義民碑」。義民とあるから一揆関連のことと推察はしたが、恥ずかしながら近江天保一揆のことは知らなかった。 一揆というとやはりステレオタイプな印象がつい先立つ。圧政に困窮する哀...
夢を持とう。 という言葉を目にすることがある。例えば、若者へのメッセージとか。 それはつまり「今の若者は夢を持っていない」という認識が前提としてあり、「それでいいのか」という幾分かの不満であるとか「かわいそうだ」と憐み残念に思う心情とかがあ...
昨日、イオンの中にある大きなリサイクルショップで、突然店内に流れる Like a rolling stone に気づき驚いた。フジロックに出演したBob Dylanの映像がyoutubeにもアップされている。あの賞のせいで、いくらか話題とな...
そのタイトルははるか昔子供の頃、テレビドラマとして耳馴染んでいる。きちんと見た記憶はないが、冒頭のキャッチーなナレーションが印象に残っている。当時はそういうアメリカ製のドラマが広く日本の家庭に浸透していた。ベトナム戦が泥沼化する以前の明るく...
じりじりと蝉の声が幾重にも重なって響くようになれば、もう夕暮れのひぐらしに夏が終わる寂寥を早くも思い浮かべ悲観する。例えば連なる休みが始まったばかりなのに、まもなく休みは終わりなのだと何もできなくなるように。その、早すぎる諦めの心癖はいつか...
人は必ず死ぬ。 そう書くと、何か暗く不吉な禁忌に触れてしまったかのような奇妙な気配が漂う。しかし、これはまぎれもない事実である。誰もが知っている動かしがたい厳然たる事実である。 昨夜、死刑となる夢を観た。そうした状況を夢に見たということがこ...
映画「砂の器」の構成は普通ではない。警察捜査会議の席上で担当刑事がすべての事情背景を語り、その真相が明らかとなる。これは定番のスタイル(以後この様式が模倣され定番となったのかもしれない)だが、驚くのはその長さだ。約二時間半の映画の内、捜査会...
久しぶりに見た。90年代がよみがえる。 とても好きな映画。映像もいい。小嶺麗奈もいい。バイクもいい。音楽もいい。男女とも高校の制服がいい。 映画のいわゆる評価は高くないはず。石井聰亙の作品紹介ではいつも脇へ追いやられている。それでもそんなこ...
エル ELLE 2016 圧巻。とても面白く見応えがあった。パルムドール獲得はならなかったが、カンヌで極めて高評価を得たというのも納得。主演女優がとにかく凄いし、脇の俳優も実に上手い。ステレオタイプでないユニーク(唯一)なその人を完璧に演じ...
「狂った夜 La notte brava」 1959年 イタリア映画。脚本がパゾリーニ。画面はネオリアリスモの延長上で砂埃と戦後退廃が漂っている。描かれる青年群像はまさに刹那的な虚無そのもの。大きなコンバーチブルカーに飛び乗って夜の街を疾走...
脚本家橋本忍死去。 「生きる」 「七人の侍」 「砂の器」 その膨大な作品群の中、この三タイトルを挙げただけでもう圧倒的である。日本映画史に屹立する巨大な金字塔。作品の放つ強烈な閃光は時代や国家を超え、比類ない。 テレビ時代以前の日本映画作品...
「姿三四郎」 黒澤明、1943年の初監督作品、戦中のヒット作である。現代から見れば日本映画黎明期となるし、CGや高度な特撮技術を見慣れた目には、画面は褪せたモノクロで古臭く、三四郎と宿敵との勝負場面もただじっと対峙するだけで、対戦相手を一撃...
私の書いたある長い小説について、友人と語り合った。彼は刑事司法の現場で心理専門家として日々臨床に当たっている。信頼している現場専門職の一人である。 小説の読み方は千差万別である。彼と話していて心地よくまた得難いと思うのは、彼が小説を具体的な...
「日本残酷物語」。前にも書いたが、宮本常一他監修による社会学の歴史的名著である。 1から5巻までを入手したので、関心のままに章ごとに読んでいる。このところは第5巻近代の暗黒を集中的にめくっているのだが、本当に興味深い。数値的なデータで総体の...
「ハンソロ」を早速観た。 前回のスターウォーズ作品「最後のジェダイ」を観て、正直なところがっかりした。もともと私が映画「スターウォーズ」に惹かれていた要素がことごとく裏切られたからだ。たとえば、人間や地球が宇宙の中でごく一部を占めるだけの ...
8日からちょうど2週間、色々な人と出会った。面白かった。気持ちのいい出会いは掛け値なしにうれしい。市井の人々だ。その輝きはそれぞれとても魅力的だった。どんな地位肩書や経歴よりも、ただその人の醸し出す気配は正直で嘘がない。やはりそうだ。そうい...
午前十時の映画祭、いよいよ黒澤映画が始まった。皮切りは「用心棒」だ。早速出かけた。感想は言うまでもない。ただただ、満喫。映画館で観たのは、もう二十年以上前に神戸で見た切りだ。やはり黒澤は映画館がいい。 とは言っても、午前十時の映画祭、今年の...
題名はえぐいが、日本社会の辺境、底辺あるいは被虐の地域人々を記録した社会調査の歴史的名著。 宮本常一や谷川健一が監修。1巻のみ、平凡社ライブラリーの復刻版で読んでいたが、念願の5巻をようやく入手。教科書に記されている支配者列伝としての歴史で...
中公新書の「高校紛争」を読んでから、十代精神の清冽な冷気の森を彷徨している。 併せて注文していた三一版「高校生は反逆する」も届いた。はじめに読んだのは高校時代だ。中に掲載されている高校新聞の論説が社会思想から哲学さらに文学へと網羅しておりそ...
「高校紛争」中公新書、読了。 創作作品化できそう。強烈な心的刺激を受ける。ずっとずっと念願だった、10代の物語。後景だけ京都左京にして、2011年の隣県のH高校をモデルに舞台として、1974甲南高校を描き出す。1974と2011を結びつけら...
面白かった。 2012年だったと思うが、若い友人から「ソードアートオンライン」というとても面白いアニメがあると聞いた。さらに聞くと、それは「ゲーム世界の中での物語」らしいことだけは理解できたが、それ以上に何も理解できずつくづく年齢を感じた。...
「カクレキリシタンの実像」読了。先に書いた「党派性」についてのとても良い事例だった。もちろんそれは「はからずも」ということ。著者は意図などしていないし、自他(カトリックと隠れキリシタン双方)を「客観的」に見ていると自ら認識しているし、また懸...
安かったので勉強用に入手。邦画名作脚本を多数にわたり収録。古い映画はレンタルで扱っていないし、ネットに上がっているのもあるにはあるが、圧倒的に少ない。残念。しかしシナリオ片手に映画を見るのは楽しい。常々、シナリオだけで映像が見えたらと思って...
アフターザレッドは一晩で読み上げた。山本直樹のレッドの続き見たくなったが、もう連赤ものはこのあたりでいい。ポルポトクメールルージュについては、かなり以前に虐殺拠点となった強制収容所S21のドキュメント(被害者サバイバ、加害者)映像を見て強い...
村上春樹が「オープンシステムとクローズドシステムの闘い」というとき、「クローズドシステム」とは極端な場合、外に対して「排外」「排斥」を標榜する排他主義であり、緩やかな表れとしては、自分につながる属性を例えばことさらに優れていると誇示し愛着す...
村上春樹の文章について、以前カポーティの項でここに書いた。どうにもうまく表現できず、「あの奇妙な乾いて無機質な、そう、騙し絵のような何かバランスや構造の転倒して倒錯した、暗号のような文章」と記した。苦手と書いたが、それは文章に触れて沸き起こ...