● 言葉の力言葉の力への揺るがない確信。その力にこそ依拠する覚悟。
● 世界は物語にあふれている 日常の出来事や事態が宿す深淵で甚大なドラマへの限りない郷愁。
● 生は死とともにある限りのある生の営みを死の側から眺める畏敬の眼差し。
● 力のある文学消費されるための文学でなく、深奥からむしろ衝き動かす文学。
● 文学の復権文学をしてそのいのちにふさわしく市井で働かしめよ。
「魂の文学へ」 原 浩一郎

書くことを拒まれると死なずにはいられないかどうか、白状してごらんなさい。なによりもまず、あなたの夜の最も静かな時間に、自分は書かずにはいられないのか、とご自分にお尋ねなさい。心のなかを掘って深い返事をお捜しなさい。(「若き詩人への手紙」Rainer Maria Rilke)

五十嵐勉 カンボジア難民小説作品群

国土を支配した急進過激勢力による人民大虐殺を逃れ、ようやく国境にたどり着くも隣国から入国を阻まれ、やむなくそこに民衆の難民集落、キャンプ村が出現する。虐殺と飢え、強いられる密告と強制労働による筆舌尽くしがたい過酷の日々から逃れ、そこには束の...

ロレンス「チャタレイ夫人の恋人」1928

冒頭、有閑貴族紳士たちが延々繰り広げる冗長で衒学的な議論は、当時の典型的な思想の一片が明瞭に語られており興味深くはあったが、(作家の意図通り)退屈に思われた。しかし、森番メラーズが現れてからは、ぐいぐいと物語に引き込まれ、文庫560頁だから...

カミュ「ペスト」サルトル「実存主義とは何か」、そして構造主義・ポスト構造主義について 

前に内田樹の「寝ながら学べる構造主義」を読んで頭の中がひっくり返るくらい衝撃を受けた。私を知らず支えていた巨大な柱が見事に倒壊してしまった、という感じ。まったく自覚はなかったが、私は実存主義の子であり、それは他の同時代人も一緒である。主体性...

藤原竜也「ハムレット」2003

彼の途轍もない表現の力をなんと言い表せばよいだろう。遠くからでもわかる美しい顔立ちや均整の取れたしなやかな体躯の見栄えまでが加担して、溢れかえるほど魅力が噴出して比類のない表現の巨大な源泉となっている。 私は叫ぶ演技はあまり好きではない。い...

夏目漱石「こころ」1914

はじめて「こころ」を読んだ。ようやく。実は読みながらずいぶんとツッコミ入れていた。 ともかく気になったのは先生の奥さんについてだ。その描き方がどう見ても大人の女性というより、少女のようだし、これは男の好むひとつの幻想としての女性像に思われ、...

1/19文学フリマ京都 原浩一郎&文芸思潮

とても晴れ上がった青空だ。いつも朝早く出発せねば間に合わないのだが、今回は近場だ。余裕をもって朝十時に会場に到着した。 これで出店は四回目となる。開場前の準備も随分と慣れた。ブースの狭いスペースにうまいこと作品を陳列する。 今回は何しろ「文...

「チェーンギャング」1991

昨日の文学フリマ京都で信じられないような出会いがあった。私のブースの前で一人の男性が興味深げに私の作品を手に取っている。声をかけると、なんと30年前に私が使っていた筆名を口にされた。あまりの驚きに、すぐに返答できなかった。 実は30年前に一...

今津-鯖街道-小浜-敦賀

青春18切符が一回分残っていた。今季の使用期限は1月の10日である。もともと金券ショップで3回分を購入したものなので、残り1回分を売ってもよかった。購入したときに買取金額100円追加のクーポンも貰っていた。しかし惜しい。またゆっくりJR乗り...

1/19第四回文学フリマ京都 @みやこめっせ

 いよいよ1/19に岡崎みやこめっせで第四回文学フリマ京都が開催される。ところで「みやこめっせ」ってまだ馴染めない。勧業館といった方がピンとくる。これは大山のぶ代のドラえもんでないと十年経っても依然違和感覚えるのと同じでどうしようもない。 ...

船木誠勝「理想の格闘家とは」

私がかなり以前に格闘家の船木誠勝氏に送った質問に対して、年頭の動画で30分に渡り語っていただきました。生きるという闘い、死を覚悟すること、そして生き伸びること。 ▼私の質問 「以前の動画で重病患っておられる方へのエールとして『何かと闘ってお...

teamクースー「分署物語」2019

消防士たちを描いた素晴らしい劇を観た。まだ上演中なので物語の中身まで書くわけにはいかないが、Teamクースーによる第6回公演「分署物語」だ。 脚本演出を手がけた古屋治男氏はもともと消防士だったという。だからリアルな男の職場のあるあるエピソー...

ベケット「ゴドーを待ちながら」1952

ベケットを観た。舞台ではない。没後30年映画祭で「ゴドーを待ちながら」が上映されたのだ。ベケットの戯曲をフィルム化しようというプロジェクトによるものらしく、戯曲を丁寧に映像化したものだという。 実はベケットについてまったく知らなかった。事前...

フェリーニ「道」と「よだかの星」

フェリーニの「道」を見た。何回目だろう。それでも見るたび新しく映りまた深く味わえるというのは大した作品だ。 今回気がついたのはこの作品もまた何が正しく、何が間違っているか、何が良いことであり、何が悪いことなのか、示してはいないということだ。...

Steve Jobs 「The crazy ones」

 今日は12月8日、真珠湾攻撃、そしてジョンが暗殺された日。  昨日生の演奏を味わったせいで、なおさらジョンのこと思う。もう12月になれば町に山下達郎のクリスマスイブが流れ出す頃もあったが、時代はもうさらに暗くなっている。ジョンのHappy...

TOGET!S Live in 熊彦 @ 嵯峨嵐山

嵯峨嵐山と言えば京都を代表する観光の名所とされる。渡月橋から嵐山竹林界隈、日中は大変な人並みで中国語が声高に飛び交っている。 JRの駅を降りるともう辺りは暗かった。目指す場所は老舗高級料亭たん熊北店、熊彦である。この歳になってもマクドやネカ...

星亮一「偽りの明治維新 会津戊辰戦争の真実」、上田秀人「竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末 帰郷奔走編」、星亮一「奥羽越列藩同盟」、金子常規「図解詳説幕末・戊辰戦争」

敗者が背負う悲劇性については言うまでもないが、勝利が正当性を証明することにはならないように、敗北もまた被害者として正当性を自動的に付与されるわけではない。 敗者が勝者の非道を暴く執念にとり憑かれるのは、勝者は常にその勝利故の権力を以って不正...

柄谷行人「意味という病」1975

他のシェイクスピア悲劇の戯曲と同様、「マクベス」の読後にも不可思議な評価不能の無音状態に心が停止した。 これまでどおり発酵するまで少し時間を置いたらよかったのだが、古書店の店先で開いた文庫本の冒頭にこんな一節を見つけてしまった。 「『ハムレ...

シェイクスピア「ハムレット」1601

読んだあと、すぐにでもその印象や連想を素材にして考察を書ける作品もあれば、なんともひっかかりがなくネタにできないものもある。それはもちろん作品のせいというよりも、私の側の勝手な変数が導いた値にすぎないが。 「ハムレット」を読んだ。先に読んだ...

創作とリアリティ

週末お茶の水で「第三回全国同人雑誌会議」が開催される。参加の予定である。 私は文芸同人誌に所属はしていないが主催の文芸思潮から案内があり、ちょうど同人グループを立ち上げたいと考えていたところなので参加することにした。 基調講演は三田誠広であ...

シェイクスピア「リア王」1606

リア王の王権譲渡をめぐる約ひと月の騒動の間に関係者のうちほとんどが非業の死を遂げ、生き残るのはほんのわずかだ。この凄まじい急転直下の崩壊はどういうことか。 冒頭リア王は、旺盛な我が権力を生前に譲渡するため国土の分割を自身への賛美の度合いで決...

ソポクレス「アンティゴネー」B.C.441

どうしても気になり、ソポクレス自身の「アンティゴネー」の戯曲台本を読んでみたくなった。長く借りていた本を抱え県立図書館へ向かったが、長期延滞の小言をもらうだけで図書を借りることはできなかった。やむなく、BookOffまで出かけ、呉茂一訳の岩...